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詩誌 空想
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二〇一〇年四月

2009-04-27 あめだま 柚飴
2009-04-26 あるおんなを 透夜
2009-04-24 僕たちの失敗 yuko
2009-04-24 竹の花 野の花 ほかけ
2009-04-14 署名 古月
2009-04-05 玩具の町 ma-ya
2009-04-04 少女試作 透夜

あめだま 柚飴



目に映るのは透き通るような青空
聞こえてくるのは街の声
あの時なくした一粒の飴玉
救えなかったひとつの願い
戻ることのない思い
逃げることしかできなかったんだろう

そっと包み込んだ一つの光
今はもう遅いだろう
それでもおまえが望むなら
救えなかった願いを光に託すから


瞳に映る目の前の無数の星
耳に入る美しい旋律
忘れかけてたあのときのこと
見つけてしまった眩しい光
託してしまった願い
いつかわかるときが来るだろうか

きらめいていたあのときの光
見つけられたから
たった一つの願いに泣くことがあるのなら
わかってくれるのだろうか

変わらぬ思いがあるなら
恐れなど知らずにいられるのだろうか
この澄み切った空が続くなら
変わらないままでいいかもしれない

流れ落ちていく願い
今の自分にわかるなら
忘れかけていたあのときと一緒に
進んでみるのもいいだろう













あるおんなを 透夜


あるおんなを抱くとき
そこに
かつて抱くことのできなかった
あらゆるおんなの
影をみます

わたしは目を閉じ
おんなたちの影の
声を聞こうと 聞こうと
くるったように
耳をすまし
おんなを抱く

あなたは
わたしをゆるしてくれますか

僕たちの失敗 yuko


夜に降りていく左手の
とびらを開けると
雨が降っていた
ひろげた傘で
夜の底を浚う
足元は赤く
水面を風が走り


首筋を
氷のようなものが
つたって
溶けて
二たび凍っていく
音に交じって
きりきりと
糸が曳かれ


梳いた前髪の
橋を渡って
差し出された指を
いっぽんいっぽん
折ろう
そしてそっと
コートをかけてあげる


ぼくたちの分水嶺を
渡っていく生きものの
足は奇数で
それを
最初から知っていた
知らなかった

竹の花 野の花 ほかけ


その子供は乞い焦がれた

百年に一度だけ
花を付けるという


   *


子供は生まれつき 足が悪かった
ひょこり ひょこりと 醜い姿で
足を引きずり 庭を歩いた
彼はその家で生まれた たったひとつの忌みだった

母は悲しみ
父は知らない振りをした
新月の夜に
彼らは 低く短い声で話しをした
「 なぜ私たちに このような子供が生まれたのだろう 」、と

そこから漏れてくる やりきれない鬱屈に
肯定されない哀しみに

子供の命は
少しずつ 少しずつ 
萎えていった 干涸らびていった


   *


風は突然に訪れた 何処か知らない国から

それは猪狩りを生業とする猟師だった
肌の色はどこまでも浅黒く
血の滴る肉を 喰らい付いて食べた
あれは野獣というものもあり
生臭い臭いがプンプンすると
噂するものもあった
男の小屋は 子供の屋敷の崖の窪みに
ひっそりと建っていた

男が家の前を通るたび 子供は聞いた
 
「 竹のはなを 見たことがある? 」

男は子供に一瞥をくれると 黙ってそこを通り過ぎた

春夏秋冬 四季は過ぎゆき
春夏秋冬 また次の四季が巡りゆき
そうして 季節は移ろって行った 


子供の身体はひとまわり大きくなり
ひょろ長い手と足を持つ少年へと
僅かな成長を遂げていた
少年の助骨は飛び出し あばら骨は浮いていた
もはや少年は歩くことすら困難だった
それでも少年は
猟師の姿を見ることを止めなかった


   *


ある晴れた日の早朝に 男はふいに言った
「 竹のはなを 見せてやろうか 」

少年は黙って 足元を見ながら 肯いた

男は、古い棒切れのような干涸らびた少年の身体を
しょいこのように自分の体に背たろうて、
山道を、一歩、一歩、
踏みしめるように登っていった。
平らな足場を探しながら、
玉のように吹き出る汗を、何度も、何度も、
汚れた手拭いで、拭って

ひと山、ひと山、山を登り、谷を下り、
顔に被さる背丈程の木々の葉を、払いながら、
頬を切るススキの葉を、掻き分けながら、
男は進んだ。
そして、とうとう
最後のひと掻きを終えたその瞬間

ぽっかりと日の差す 
穴のあいた 明るい空間

足許には ポツリポツリと
蕗の塊が生えていて
傘のかかったお月様の光のような花を
ところどころに付けていた


「 少年は 見た 」
百年の竹が 朽ち果てようとするその姿を

竹は もはや 鈴なりの花で覆い尽くされ
黄金色に照り輝き 竹の一生を讃えようと
木々は 弔いの音色を奏でようとしていた

竹は 残る力を振り絞りながら
崩れ落ちそうになるのを 堪えていた
終焉の 淡い光りを 放っていた
誰一人として 見るものはなかったが
ざわ、ざわっ、
それが
終わりを告げる 竹の最期のひと震えだった


少年は浴びた 
竹の叫びを

何十年も立ち続けてきた 竹の記憶を
午後の陽光を 透明で荘厳に満ちた 弔いの大気を
いつしか少年の記憶は 古竹のそれと同化して
苦しみは混ざり合い いのちを分け合いながら
やがて
ひとつの姿へと 結晶していった
それはひとつの奇蹟に近いことがら


   *


気がつくと 日は暮れかかっていた

かれは猟師の背中を降りると
男の肩に つかまりながら
じぶんの足で
両親の住む家へと
辿りついたのだ



署名 古月


驟雨
壁の絵を外すと窓がある
まだ名前のない誰かの清潔な床に
点々と零れた泥のような眠りを辿る
廊下に並んだたくさんの額縁の端
署名が目に入る
布をかける

遡行する
中庭の石畳はまばらに濡れ
痩せた子供が根元から折れている
それは昨日の朝に芽吹いたばかりの
けして触れる筈のなかった痛み
ざらついた舌を蟻のように舐める
傾いた光ばかりが壁に凭れ

真新しい日
どこまでも続いていく葬列の先に
赤子は高く掲げられながら
老人を遠くへと連れ去って行く
乾いた赤い土の上に横たわる
たくさんの名も知らぬ人々の群れ
踏みしめられて砕ける骨の音を
墓碑に刻みながら歩く
絵筆を置く

玩具の町 ma-ya



堰をきる
しずかに門をあけた番人は
まのびした星の弧をみあげた
すべての家々に炎を
つけていった、彼らの
足音はきれいに整列して
西のほうへ向かったよ、と、
砂まみれの
みえない眼で、それでも
明けることを
ずっと知っていたから
うっすらとわらっては、いた

くろく伏せた街を
たくさんのカメラたちが行き過ぎる
ちぎられた手を
あらゆる角度で撮り
ひととおり終えてしまうと
もうつまらないと
眼をそむける
だったら
あたしたちはシャッターのなかで
あきるほど、しんでいこうね

焦げた陸の下
かすかに水の流れる
音がする
かろうじて原形をとどめた
くすり指で、砂を
掻いたら
指はぐずぐずと崩れた
不思議といたくない
もう影もなくなったから
陸はひたすら
明けるしかないのだ

堰をきる
水はない炎も、ない
あたしたちを
大きく、のむのは
そんなものじゃないから、
こぞって門をあけて
押し寄せた
波の去る部分から
生臭さ
やわらかな角質
半分にかち割れたたましい
せかいの正体、は
いつもたやすく
在ること
誰もが既に知っていて
だけれど
輪郭もないまま
うまれる筈
では
なかったの、
祈りには
まだ
すばらしく遠い
途の、





少女試作 透夜


神々の死に絶える春ですから
そこかしこに涌く聖なる亡骸
毒を含んで膨らむ若い芽
薄皮剥いだ肉の赤さの蕾
飛んだり這ったりする虫
こばえ うじ げじげじ
むき出しの陰毛めいた根っこ
汚物の色して落ちる木蓮
羽根朽ちた小鳥の白骨
それらのにおう湿った土
みな聖なる清い亡骸ですから
わたしはひとつひとつ拾い集め
祈るべき
わたしの神を思索する