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詩誌 空想
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詩になる 野の花 ほかけ


詩を書いて 読んで
誰かのカケラを拾って集めて

言葉という名の血液が
サラサラサラサ
体中を流れていくのが
分かるんだ

朗らかで 温かな笑いを 私にくれた
あなたのおかげで ここまで来れて

初めてあなたと 挨拶を交わし
あなたにそっと 襟を正してもらい
涙するあなたが そっと喜んでくれて
あなたのことに 胸はふさがる

そんな 
たくさんの あなたが
わたしの この
ちいさな 人生に 
存在していてくれるんだ

このひろい
言葉という 夜の海に
思い切りダイブしてみて よかったよ

灰色の建物ばかりで 
黒く塗りつぶされていた
わたしの空は
高く
どこまでも 高く
空気の層が 積み重なって

星が
随分と高いところに輝いているんだって事実が 
まっすぐに 
わたしの体を貫いたんだ
そしてわたしを
地面から 足元から 静かに満たしていった


わたしは 夜に混ざる
音もなく 声も上げない
この世界の
大気になって

いま ゆっくりと ひろがり 
色が 溶けだしていく

休日 嶋井やや


金色の粒子が降り注いでそこら中
寂れた町も今日は暖かい
素肌の風が髪をさらう
息吹をBGMに
きみといつまでも溶け合っていたい
こんな日には
きみと離れる
方法を模索する
きみと繋がる方法が分からないので
愛でたって
傷つけたって
相応の跡が残るだけ
覚えた感触を想いと仮定した
僕らは
消える
近いうちに
そのままで「ある」とは
いつまでも「ない」とさほど変わらない
きみも僕
も留まれない
その現実も夢も
叶えても捨てても忘れても残る
のは痛みだけ
押し花にして持ち歩きたい
情念を鑑賞する
きみは
優しさと酷さを並べて置く
そのたびに
脆さを気掛かりにして
ただ足早に流れていき粒は
滴に変わり
そのままのもの以外を流す
傘を開いた
きみは
頭痛を抱え
家路を急ぐ
僕はきみをどうにかする
方法ばかり考え
生ぬるい
雨は
町をくすんだクリーム色に変え
浅く呼吸をして抱える両肩
僕は
こんな日が嫌い
では決してない

遭難 古月


逃した魚が尾ひれを揺らしながら
泡のような歌を唄うから
僕とお母さんは今夜もふたりきり
空っぽのお皿を囲んでいる
待ちくたびれた夢の中で僕は
とても大きな魚を釣った

お父さんの乗った船が氷山にぶつかって
いまだに体が見つからないまま一年
数字になったお父さんの
初めての誕生日がやってくる
テープレコーダーから流れてくるのは
僕が生まれた日のハッピーバースデー
ロウソクの火を吹き消したら
今度は僕が唄ってあげるね
ハッピーバースデー

目が覚めるとお父さんが帰っていて
大きな魚が釣れたよって自慢げに
両手をいっぱいに広げて見せる
僕はなにかを言おうとするけど
言葉はするりと逃げてしまった
お父さんの凍りついた両手がぼろぼろと溶けだして
部屋はたちまち水浸しになる
インターホンから聞こえてくる泡のような唄
いまにも玄関を突き破りながら
なだれこんでくる巨大な氷山
舵を取るひまもなくあっという間に
僕らのうちはこなごなになった

お母さん
僕きょうね
学校の帰りにお父さんを見たよ
お父さんの後ろ姿はこんなに
こんなにでっかかったんだ
港のほうではたくさんの汽笛が
いつまでもいつまでも鳴り止まない
ありがとう
お父さん
お母さん
ハッピーバースデートゥーユー
ハッピーバースデートゥーユー
最後の通信を
これで終わります

夜深し(副題:コメトラ) 嶋井やや


初期設定を間違えたと嘆く喜劇
闇雲に走る競走馬は、悲劇…



真夜中に黙って座る部屋の中では
多角的な視点など偽りです
沈黙と同じくらい聞こえてくる喧騒の
どちらが本物かは分からない
怖くて歌を歌っても
掠れる声を押さえ塞ぐ

自分を取り囲む見えない怒号の正体
それに名前など付けたくなくて
嘘。
本心は付けたくて付けたくて付けたくて付けたくて
名付け親は探さないけれど
心の中では名前を決めてある
でも一生、呼ばない

知った事実は全て
後付のアイデンティティになって
偽りの過去を彩っていく
どう足掻いたってここには過去しかないという悲劇は
周りから見るとただの喜劇
けれど、夜に喜劇は存在しないの

夜明けの窓の外
地面から朝が染み出している
鳥が喜劇を呼んでいる

薄暗い、薄明かりの屋上
瓶の蓋を開けようとする女の子
力余って瓶を落として
割れ目から空が零れ出る
撒き散らした絵の具のような重い重い重い重い、青

出来れば空になりたかった
本当は全部混ぜて光になりたかったけど
青だって、赤だって、良かった
美しいと感じるものなら何でも

空色の水溜りが揺れる
毒だ、きっと
女の子は水に触れて、悲鳴をあげる

幼いという事、喜劇
女であるという事、悲劇

女の子は日の出より先に空に溶け出す
競走馬も喧騒も怒号も鳥も水溜りも何もかもが還元し
それでも遊びは終わらない

ちいさな食卓 野の花 ほかけ


ある日
いつもの台所に立って わたしは
コロンと丸い 蕪の皮をむく
クルクルくるくる 手で回しながら
リンゴみたいに 長く繋げて剥いていく

その手が止まると いつも
お母さん、あなたのこと思いだしている

あまり広くはない台所の片隅で
コトコトと 安物のアルミの鍋をコンロに掛けて
あなたは料理を作ってた

お母さん
あなたは 料理が少し
下手でした


わたしと父が川辺りで 心行くまで楽しんで
ハヤという魚を釣り上げ 帰った夕暮れ
お母さん、
貴女は「魚が死ぬのは 可愛そう」と言いながら
ボウルの中で 魚の命が 
しずかに しずかに 尽きていくのを
辛抱強く待っていました

片付けも あまり上手くはなかったけれど
今日のつましい食卓が 少しでも賑わいのあるように
一生懸命 用意をしていた


けれども 家族と過ごすどんな時間も
あなたのこころを 芯から嬉しくすることは出来なかった
いつもわたし達を見ているような振りをして
寂しい笑みを浮かべてました
そんな時、わたしは 少し自分が憐れな子供に思えたのです

お母さん 
あなたはとても 純粋で
生きるに 少し 不器用でした


いま、わたしも大人になって
下手な料理を作っていると
わたしの少しひび割れた手のなかに
貴女の 寂しかった一生が、ふとしたはずみに重なって
じんわり じんわり 心に沁みて来るんです

「おかあさん、おかあさん、」
 何故か涙が出るんです


だけどね、
だけどね、おかあさん
わたしの子供は 大きくなっても
コロコロ笑って、大きな声で話をするの。
時にはソッポも向くけれど
そのひとつひとつの言葉の 何とも言えない温もりに
泣いてみたり、笑ったり
一緒に悩んでみたり するんです

 

おかあさん、そろそろ娘が帰ってきます。

わたしは慌てて 料理を続ける
早春に
笑顔かわいいタンポポの 黄色い花の咲くような
そんな ちいさな食卓を
まあるく まあるく囲みたくて わたしは
今日も 料理を作るのです