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詩誌 空想
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制約 野の花 ほかけ




   瞳は黒く 髪は短く

   身なり正しく


   女は

   戦闘へと 出掛けて行く


   一分の隙も許されず 女を盾に

   化粧と言う名の 仮面を被り


   女は

   いつの間に
   
   女でなくなってしまったのか。


   嘗て 花を手折った

   白く滑らかで 卑猥な指先は

   今では タイムリミットに追われて

   パソコンを睨みながら 書類を繰る



   艶かしく

   椿の花の 血を流す

   女と言う生き物は

   一体何処へ行ってしまったのか





 失意より 野の花 ほかけ


  私の中から 言葉が失われた

  それはささいな出来事の 積み重ねに過ぎないが

  自ら言葉を失うには 充分な仕打ちだった


  ひとつの心が 消えるとき

  体と心の両方を合わせ持った 人間界の掟が

  わたしという人間の なにもかもを

  蝕んで 腐らせる


  魂が消えようとするとき

  強く激しく 肉体をも苛むので

  私は二重に 打ちのめされる

  「苦しい」と言う 陳腐な言葉でしか

  表現されない 虚しさ


  「どこが苦しいの…」

  その一言の憐れみが

  あなたの 自然な言葉で 語られることを

  一重に乞うていました


  サクヤハアリガトウ・・・
  ココロノオクニヒソムワタクシニトウテクレテ


  ようやく私は 取り戻された 貧しい言葉で

  きみに語ることができるのだ




 天の子供 野の花 ほかけ




   今年もまた

   吹きすさぶ 北風のマントを纏って

   冬将軍が やってくる


   突き刺す冷気に 手は かじかみ

   吐く息は どこまでも真白で

   ほっぺと 耳たぶは まるで林檎の赤さだ


   なんと疲れを知らぬ者達よ…



   だが

   どんよりと落ちてきそうな 空を支える武骨な手にも

   灰色で塗り固められた憂鬱な日々の守りにも


   きらりと輝く 透明な朝はやって来るのだ

   小さな水溜まりが 薄暮の中の 朝の光りに

    ほんの小さな 

   ステンドグラスを 創りだすのだ


   触れれば 張り付き 踏めば パリリと破れる

   その驚愕の一瞬に
   
   わたしは 普遍のものへと

   生まれ変わる



   気を清浄に 満たし

   人の汚れを 塗り替えながら

   冬は 今日も届けられる

   あなたのもとへも



   わたしたちは このひとときにだけ

   天の子供に 帰ることができるのだ




林の中の象のように ハダリィ


嘗て

大きな楽譜が在った

それをわたしは「街」と呼んだり「人々」と呼んだりしたけれど

大きな楽譜は

よめたり、みえなかったり、きこえたり、そうぞうしたり出来た


往き交う音階につまづいたり、とどこおったりしたけれど

大きな楽譜は

壮大な物語であった

それにわたしはわらったり、なみだしたりしたけれど


いつか

小さな譜面の前に立つ



そこに記されるのは途方もない白紙の重圧

きみきみ 恐る恐るること勿れ


ゆっくりと筆を執り 五線を引いて始めましょう

しづかに、ありきていぬはなんのおと。


林の中の象のように

林の中の像のように
.

誰ぞ識る この弱きこころを 野の花 ほかけ




   盗まれて
  

   弱き こころを 盗まれて

   振り返り見て

   その愛しきを 識る


   我が こころ 儚き浮舟



   盗まれて


   人の こころを 盗まれて

   明日のわが身は
 
   流れに 弱き 葦の浮草

   我ぞ 哀しき



   その恋心

   気づけば 悩まし

   気づかざれば なを哀しき


   今と成りては

   陽の ひかりすら もはや危うし



   こころとは まことにまことに 嘘つけぬもの

   日々の糧とは 嘘に嘘を 塗り重ねるもの




incomplete part 嶋井やや


  そ
   っ
 遺  と
  体
触  に
 れ
  る

皮膚は流氷よりも冷たく、薄く青黒い闇が全身を支配してい
くのが分かる。砂漠のようにざらついてるかと思えばクラゲ
よりもぶよぶよとしている。鼻や頬は地盤をなくして、綿を
詰めなければ窪んでしまう。腕や足は、ぱんぱんに浮腫んで
瓜のようだ。拳が石のように硬く握り締められている。体は
重力に逆らうことをやめて、濡れた布団のように不自然に重
い。
こんなにも異物として大きく存在を主張しているそれが証明
するのは、無限の無。ひとり分の穴を、家と心にあける。


死など、怖くはない


怖いのは不可視性
熱の行方
寡黙なまぶた
終わりを探す
(どこに行ったの、)
(どうして、)
(どうして、)

死は
完成されることなく
不可思議で
不可解で
不完全

 (いかないで、)
  (きえないで、)
   (あいたい、)

      (あいたい、)


まごころが見当たらなかった
何に悲しいのか分からず
涙など
いつでも流れる
いつも着ていた制服を着ていったい
どこからどこまでが
違っていたのか
違っているのか


その時から
私、こんなに大人になりました
聞かせたい
楽しい、悲しい話もたくさん
あなたもきっと喜んでくれます

死は、あまりにも不完全
私はあなたを愛しています
いつまでも
あなたの娘の、次に

前夜のこと ma-ya


茜色の飴を
やさしいひとに貰って
大事に手のひらに握っていたら
いつの間にか空に溶けだしていた
あまい匂いの指だけが残って
蟻がぞわぞわと集まる

 ・

なつかしい音楽が流れている
車の中は暖房がきいていてあたたかい
わたしは後部座席にひとり
横にころがりみあげた
窓の先、どこまでも連なる電線
運転席の父と助手席の母が
ちいさく、何かを話して笑いあう
ちらちらと町の灯りに照らされて、遠い
置いてゆかないで

 ・

起きあがると
いちめんの麦畑で
穂がやわらかに肌を撫でる
子供ではないのだからと
たしなめられる子供の表情で
わたしはスカートの土を
はたき、立ちあがる
大人達が
夜な夜なミステリーサークルを
つくりはじめること
は、まだ秘密

 ・

気付かぬうちに
ましろい犬がついてきて
ともに歩いている
どこから来たの、と訊ねれば
首を傾げて知れないけれど
こちらを窺いながら
ついてくる
古ぼけたアパートの
開け放たれた窓からひらひらと
落ちる皿、コップ、花瓶、
踏みしめて
血だらけの足が
六本、歩く

 ・

梳いた前髪のすきまから
深爪の月とにじんだ水彩の、雲
ひかり、ひかり、落ちて
目を閉じたら思うより
風がつよくて
凍る、ゆるしたものから
(まつげに霜が降り)
だからもう覚めたりしないで
いいの



抱える 相田 九龍



花瓶を洗面所まで持っていく。
中の水を排水口にゆっくりと垂らす。幾分大きな花瓶のためどうして水を汲もうかと逡巡したのち病院の外の水道を探しに行く。消毒の効いた洗面台が花びらの一枚一枚を枯らすかもしれない。
裏から出ると、謳う、宇宙まで続く青空が広がり、それを享受する緑が出迎えた。彼女は窓べりからこちらを見ている。手を振り返す。彼女の手相はとても薄い。花びらが一枚、ひらりと落ちる。

売店の店員さんは大きな花瓶に戸惑ったが事情を説明すると少し微笑んで了解をくれた。ホースから水を入れる途中、誰かに言い訳をしなくては、と思った。でも今まで誰も責めなかったし、この先も責められない気がした。入れ過ぎた水を少し流して、もと来た方へ戻る。
空気はひやりとしている。



*  *  *



病院からの帰り、寄り道をしながら家族のことを考えた。抱えた鞄には着替えが詰まっている。橙に染まった公園、景色が揺れた。記憶と未来の間で、私は泣いた。どこかで花びらが一枚落ちた。

涙はすぐに止まった。そこに居たいだけ居たかった。陽は落ち切って私は帰らなきゃいけない。しかし一歩を踏み出すごとに歩いていることを忘れた。視界が歪んで、立ち止まったが何も変わらなかった。何も変わらない現実が何も変わらなかった。
後ろを振り返ると私がたくさんいた。たくさんの私が涙を枯らしてもまだ泣き足りない顔をしていた。その中に鞄を抱えている私がいたと思ったら、それは私だった。やはり涙を枯らしてまだ泣き足りない顔をしていた。いつの間にかひとりだった。私はいつもひとりだった。
鞄を地面に叩きつけた。砂埃がたって、砂を風が連れ去ってたくさんの旅が始まった。最後の一滴が落ちた。鞄は重そうにへしゃげている。私のようじゃないか。






G yuko


降り積もる雪の重みに
夜が
耐えきれず落ちていく
そうして彼女らは埋もれていくのだ

ひるがえった真夏の
影を踏んだあなたと
鳴くこともなく
死んでいった虫たち

絶えず
流れていくものに
足首まで浸して
スカートをたくしあげて叫んでいた
首筋を
太陽が焼く

かつて
わたしたちは自由だった しかし
その陰で
すべてはすでに失われ続けていた
、失われたのだ

柔らかい肌の少女が
刺を踏みながら歩いていく
その跡を
血が流れない
わたしたちは
見て見ぬふりをする
こころの弱いわたしたちはあなたを知らない
知ろうともしない
そして
雪のなか傘を点す

ただ
うだるような暑さが
ひとびとを圧し
広大なビル郡は
光を
反射し続けている
地中を
水が流れ
小さな
小さなわたしたちは
すこしずつ
根を張り
その上に雪が積もる

みんなおばけ 小川 葉


 
 
こうえんから
おばけのこえが
きこえました

おばけじゃなくて
ぼくのこえだよ
おばけはいいました

やっぱりおばけだ
みんなは
わらっていいました

そういうみんなも
おばけでしたし
こうえんなんて
どこにも
ありませんでした

みんなおばけでした
 
 

ツングースカバタフライ Kyo-ka+


夜、正体不明の炎が墜ちてくる日
居合わせた木々は身を燃やされ
あるいは
根刮ぎ消し飛ぶわけだけど

きっとそれはある星が孤独に耐えきれずに
宇宙を野放図に駆け回ったあげく
ここを見つけて
思わず飛び着いてしまったんだよ

嬉しさのあまり散った破片が
誰かを傷つけることになるのも構わずに

負った火傷も痣にも焦がされ
妬いている歩くだけの生き物は
あの星が恐れた空に憧れて
両腕をひろげては
ことさら大仰に羽撃いてみせるのさ

どちらかが灰になるまで
想いがぶつかり合っても必然
ここは爆心地

塩小路 ことこ


*化石

ならない電話をのみこんで
渦まくコードの
耳から漏れる
おとのかたまりを見つめてた。


*氷菓

たて波の断面のように
歯こぼれしていた、
底冷えのあさ
薄切りのきゅうりを
しおもみする
あなたの手なれたてつきは
迷いひとつなく

(ちそうをてさぐる
(はりめぐらされた地下鉄
(ぼうぜんとしながら、とおりすぎてゆく
(息つぎの しろい
(雑踏

おどろくほどかるい
すかすかの骨を並べて
路線図を模すと
せいぜんとした、標本のように
収められてゆきます


*流木

しもやけが
路肩のあたり
いちめんを覆う
わきたつ感触

まざまざとあらわれる
干渉縞の
波うち際で
(かつて根があり、気孔があった)
幹は
流線をとどめたまま

交錯する袋小路で
削ぎ、おとされた
受話器を置く