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詩誌 空想
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膨張して消化する まりっこ


蛇口が壊れました
増せ過ぎていたのでした
受け皿を用意するより先に、
電話を鳴らします
医者か弁護士か教師か
どの人を呼べば良いのでしょうか

糸を紡ぐ人はきっと
綺麗な指をしているのだろうと
先先月までは信じていました

使い捨て切ったはずの点滴が
時々私の脳やら耳やらを
流れ染め往くので
思い出します、
あの時張り巡らされた
監視器官が未だここに
生息していることを
今でも見張られているのでしょうか
私の日情を

調味料にされました
おかげさまで膨張していましたね
貴方は膨らんで膨らんで
、飛び散りました
暫くして
拭き取りましたね
満腹ですか
貴方はそれで満腹でしたか
当然の如く、
葉書で知らされただけなので
私は知りません
何も、知りません
何も、


綺麗は造語なのだと
貴方が紡いだものなのだと
先先月の私は知りませんでした

調味料は
何百と何千と何億との
一粒でしかありませんが
どなたか満たしてくれるのですか
私の事を
摘み出してくれる人は

器官が壊れました
取り皿を用意するより先に、
電話を鳴らします
医者か弁護士か教師か
どの人を信じれば良いでしょうか

私は紛れています
空虚な調味料の中で
空虚な造語の中で

消化します、
ゆっくり

真夜中に吹く風 ふるる



空にはり付く観覧車
剥げたペンキの真っ白さ
日増しに濃いのは
つぶれた葡萄の赤黒いしみ

カーテンは重く
ひらくことが困難
液体のような闇はただ流れ流れ
這う床はモップでこすれず

灰街に雨が降る
ぬぐえない裂傷そこここに
くだけるごとに
なお鋭いガラスまばゆく

光ある草原
毛のない赤剥けた羊たち
草のない草原を食み
柵がないのに逃げない
転がり逃げる石
千切れた衣服はためいている

折り曲げられたレコードと針
繰り返される
真夜中に吹く風
繰り返される
真夜中に吹く風
繰り返される
熱唱 泣き声 熱唱
叫び声 うめき声 叫び声


暴風、

木がいっぽん
どこかでばったり

(老獣はそろそろと山へのみち)

(それを聞く一対の動物めいた耳)

ホーム ことこ


海へと抱かれる
やわらかい夕陽の
いよかん色にもえて

さざめくひかりは一心に
反射し
調和し
舌のうえではじけて
ひとすじの
輪郭をあらわす

(帰ってきてもいいよ、という言葉に
 ふいに胸が
 すくみます)

沈黙の重みがいざなう
ここちよさ
長くたなびく
ひこうき雲は
脳裏をかけぬけて
空を区切り

(明日はきっと、
雨でしょう)

風に身をまかせる
いくつもの明かりが
町を埋め尽くすころ
それぞれの道を辿って
わたしたちは
山を降りる

回遊魚シンメトリー 相田 九龍


大きな回遊魚が買い物に来て言う
「服はなるべく大人な方がいい」
静かに掴んだ胸ビレで
僕は世界を辿ってゆく


すべての気泡に魔法のようなメッセージ
色は求めれば彩り 忘れれば朽ち


眠りはやがて訪れ海は深さを増して
僕はどこまで行くのだろう?

ああ いつか僕も水族館の売店で売られたい
具体的な夢の売買に巻き込まれたい




海に終わりなんてなかったんだね
白いオーロラもまた揺らめき続け
僕はそっと掴んだ夢を離せない
永遠は形も変えず目の前で
僕らに挨拶をして通り過ぎていくよ



分かってきたよ
永遠に「さよなら」を言うことはない
分かってきたよ 終わりはない
海にも永遠にも夢にも終わりなんて存在しない


むかし僕らはひとつだった
やがて僕らはひとつになる
そしていつも僕らはひとつなんだ



そんなことを考えてたら
いつの間にか静かに掴んでた手を
離してしまっていて



僕は一人
永遠を彷徨って



ひたすら海が満ちていて
青がどんな色か思い出せなくて
どっちが上かもわからなくて
寝て覚めてもまだ海は深くて
選択肢のない迷宮を
なんと呼べばいいのか

初秋 古月


三階階段の縁から身を乗り出して
手を振るのは逆光の天窓を遮る影なのです

その振り子運動の往復に眼球が催眠される瞬間
私は階段の縁に手も掛けず三階下を覗き込み
爪先も触れぬ一個の天秤の両端であり

頭の中では頻りに鳥が啼い、て、て、て
五色の羽根を広げ私の口を借りて声高に
曰く
一九三七年十月十五日初秋
侘三井郡那斐寺字能上、稲田の上稲田の井戸の
つめたい死体の見ゆるは神通力のお告げなりと、
祈祷師などと、詐欺師、ペテン師、女狐、毒婦、
田鶴子などと、淫乱、売女、股割れ、阿婆擦れ、
あの女が、あの女が、

三階階段は逆光の燦燦と降る、る、るに支えられ
往きつ復りつの影は脳の空ろを鷲掴みにし

嗚呼、眼球の調子、具合が酷く、悪い、心持ちがする、
脳髄が視神経を、軋々と、曳き絞る、れば
黒目は面白い、ほどに裏返、り、り、り

五色の羽根が脳の其処此処から生えてきて
私を思い思いの方へと連れて去ろうとするのです
私は容易く浮く爪先を廊下に押し留めようと
抵抗するも敵わずに口を開けば田鶴子、田鶴子、と
つめたい井戸の底の、何ず処に、淫売、淫売、

その振り子運動の往復に眼球が催眠される瞬間
私は階段の縁に手も掛けず三階下を覗き込み
爪先も触れぬ一個の天秤の両端であり

五色の羽根は天窓の白光の燦燦と降るに手摺を跨ぎ
田鶴子は淫売、詐欺師、ペテン師、稲田の上稲田の
つめたい井戸の底に翻る身を階下で見つめる私へと

三階階段の縁から身を乗り出して
手を振るのは逆光の天窓を遮る影なのです

秋は生まれる 透夜


ペイヴメントで若い母親が
子供を抱き上げている
もうあっちへこっちへ
走り出したくてしかたのない子供を
小さな体を一生懸命のばして
つかまえている母親の
細い足首
ふくらんだ長い柔らかいスカアトのなかの
すらりと立つ二本の脚

その脚の間
坊やがこの間通ってきたところから
いま
秋が生まれています
白い薄い黄金色の秋が
落ち葉のまわりの静けさが
生まれています

坊やのきらきらした笑い声が途切れた
一瞬
風が生まれたての秋をさらっていった

散華 yuko


夜を解体するあなたの腕が、こまやかに分たれて腐食していく、長い髪が放射状に散らばった水面に、月がぬらぬらと白く光っている、その胸に穴があいて、ぽこりぽこりと音がする、潮が満ち、その陰でひそやかに花がこぼれだす、ひとつふたつみっつよっつ、とお、

わたしはそこに横たわったまま
浅く目を閉じてそらをみている

死んだ生物が群れて、あなたの下腹部を泳ぎまわり、どうしようもないのに腐臭がする、海は荒くなにかを隠すようで、泳ぐ指さきが熱をもち、震える、そしてまた花がこぼれる、ふたつみっつよっついつつ、とお、

ほしが墜ちるその
おとをわたしほんとうは聞きたくなんてなかった

銃声のかげで不完全なひとが泣きながら笑っている
べとべとになったわたしの首をそのよごれた手で絞めて
そのまま海に沈めてください、夜は
解体されつづけている、花が咲きそしてこぼれみっつよっついつつむっつ、とお、

わたしの呼吸がとまる
そのときまで眠りにつかないでいて

水面がぼこぼこと沸きあがり、弾ける泡が悲鳴のようだ、あなたの両足はしだいに感覚を失い、もう境目がわからない、その腹は大きくふくれ、空間を時間を圧迫する、そしてまた花がよっついつつむっつななつやっつ、とお、

息ぐるしさをかかえ
ながら強く祈り続けていたのは

妊娠線がはりめぐらされたからだを、解体された夜が解放する、こぼれつづける花に、ゆっくりと水面が閉じていく、その中心でわたしたちは、つぎつぎにほしを孕む、むっつななつやっつここのつ、花を手向け、とお。

漂流者 やや


風さえ眠った真夜中
月と花だけが起きている
 ぴとん ぴとんと
君の白いベッドは滴った闇で濡れている
けれども君は決して染まることはない
 しゃらん しゃらんと
暗がりで微かに鳴った茶色い髪
この世界を拒絶する寝顔は限りなく無垢だ
いつもの不敵な笑みは事実なのかもしれない
眠れずベッドから抜け出る
冬でもないのに身体が冷えて仕方がない
息を吐く度に胸の中に澱が溜まる
自分の手と足が闇に滲んでいる

根本的な相違
そこでようやく私は諭される

いつかきっととても悲しいことが起きる。
ずっと拒絶していた子を迎え入れよう。
こんなにも変化に怖れていただなんて、
ずっと知らない振り
していたん
だね。

騙すように、諭すように、願うように
ずっと唱えていた呪文は
今やっとただの文字になった
すがるように窓を見る
月が首を傾げて消えていった
毎日はいつだって
月の疑問がなくなる前に
太陽が大きく頷いて過ぎ
そして途方に暮れてしまう

懐かしむ事は好きじゃない
思い出す、呼び起こされる、浮かび上がる
今は決して無いものたちへの唄
浮かばれる事なくてもいい
いつまでも一緒でいたい
けれどもいつかは
影さえこの身体から離れてしまう

根本的な創痍
やはり私は諭される

傷付く用意は必要ない
傷は最初から付いているのだから

君が寝返りを打つ
闇が君を避けて動く
夜の湖に浮かぶ君という島で
私は一人の漂流者だった