×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

詩誌 空想
もどる   購読方法   バックナンバー   掲示板   投稿掲示板

夕食 まりっこ


痛いのだろうけど
悪い気もしない
艶かしい自分とおさらば出来るのですから
原型なんて留めたくない
目を閉じながら体中に染み渡る
歓び

噛み締めて

私、生まれ変わります

貴方は爪先すら
入れる事が出来ないくせに
美味しそうだね なんて言う

これは
私たちだけの歓び!
私たちばかりあげている
あげなければならない
貴方は何もくれないくせに
私たちを摂取する
つまりは、欲張りだということ

私たちが受け入れるのは
熱と
油と
その、
艶かしい口から這う

舌、


そして世界が終わる時 日向 李紅


広大な宇宙という漆黒の海に
ぽっかりと浮かぶ星、地球


外側から見ると、掌に乗るくらいの小さな固体
しかし、内側から見ると、その大きさは測り知れない程


この地球という名の固体を
私たちが住んでいる星を
仮に「世界」としよう


「世界」という一つの物語が終演を迎える時
私たちには何が見えるのだろうか
何を感じ、何を思い、
何をしようと考えるのだろうか


ただ蹲り、恐怖に怯えながら
終焉の時を迎える人

何か食い止める方法はないかと
ひたすら頭を働かせる人

「世界」から脱け出そうと
脱出を試みる人

何も考えずに、ただじっと
時間を過ごす人


私は一体、どの人に当てはまるのだろうか


そして―・・・物語が全ての幕を閉じる時
「世界」はどうあるのだろうか―・・・


風のない朝 透夜


風のない朝は
こころの葬儀場でせう

こころはからだより
容易くタナトスの誘いに屈するので
せめて手淫の欲求に抗えないのと同じほど
生きたいとは願えないのか

風のない朝に
朝日を待たずして果てた蛾を
鴉が攫うとき
土瀝青に残される
ちぎれた灰瑠璃の羽

風のない朝
こころの葬儀は成るのでせう

縷々 古月


帰らずの雲は行きすぎる空に
行き交う鳥たちはみな見知った嘴
低く羽ばたき描いて木漏れ日揺らす
くわえた小枝の芽吹きは幼く
目に青く染み沁み無彩は空腹
風は流れて心地を洗い
嘆きの顔に一輪の花

交わりたがりの平行線と
一人では歩けない道の話を
どうやらどこかに置き忘れてきて
帰りを待ちくたびれた夜更かしの絵筆は
午後まで眠るので朝は静か

野薔薇の指先にくちづける陽を
羨む果実が頬を染める頃
庭先の鍵盤と甘い焼き菓子で
音楽はいつまでもやむことを知らず

穏やかな暮らしに丸くなった
優しい色をした割れ硝子も
もう誰も傷つけなくていいと
裸の手のひらをそっと包む

母も母から教わったという
最初の一筆を待ちきれずに
飛び起きる寝床からはみ出した夢の
あまりに脚を浮かせたものだからつい
舞い上がる一瞬のきらめきに
またたく月と星
あふれて

とりどりに咲く日々の色々の
思い思いから色色が溢れても
色に満たない光を重ねる
新しい色を忘れずにいたい

いつだって見飽きたなんて聞き飽きた嘘にも
見渡せば何もかもがきらきらと輝くから
言葉はことごと歌になって
いつまでも言葉になれないまま

通知書 たもつ


 
 
電話回線の中をひとり歩く
途中、水溜りのような海がある
工事のためしばらく混線する恐れがあります、と
電話会社から通知書が届いたばかりだった
仕方なく簡単な水遊びをする
ふやけた体がどことなく透きとおって
薄汚れて見える
脱水症状を起こしたのだろうか
犬がぐったりと軟らかな様子で横たわっている
近くに落ちていた手押し車に乗せて
再び歩き始める
声を聞きたい人がいた
聞いてどうするわけでもないけれど
たぶん、どうもしないと思う
目的の電話番号に着くと
聞いたことの無い声で
知らない名前を告げられた
一言お詫びを述べて帰ることにした
帰り際、犬のために少しの水と
魚の練物製品をいただく
木陰の涼しい場所で犬と別れた
それからしばらくの間は受話器を取ると
波音と犬の鳴き声が微かに聞こえたけれど
工事が終了した旨の通知が届き
必要のないものばかりが後に残った
  
 

偽似愛 日向 李紅


アンタは酷い男だって・・・
滅茶苦茶に嫌って  見下してもいいよ?


だってそれは  本当のことだから・・・


優しい  優しい  君の姿に
いつも違う別の奴の姿を重ねて
君をあいつだと思って
勝手な自己満足の中で生きている


「あいつだったらな`・・・」とか、
「あいつがいればな〜・・・」とか、
いちいち  ちょっとのことで比べてみたり
でも結局  君じゃなくてあいつがいいって結論になる
何十回  何百回比較しても・・・


どうせなら  二度と顔も見たくないってくらい嫌ってほしい
俺のことを  憎んで  憎んで
消したいってくらい  恨んでほしい


だけど  君は・・・
「代わりでもいいよ・・・」なんて・・・
自分の姿に  他の奴の姿を重ねるような
最低な男に抱き着いて


もし俺が  あいつのことを好きじゃなかったら
とっくに  好きになってるのにな・・・


俺なんかに抱き着かないで
こんな酷い男を好きにならないで
君は  君を大切にしてくれる他の奴と


どうか  どうか


幸せになって・・・

フルコース 〜宅内旅行 水瀬史樹


彼女が「旅行に行きたいね」、と言い出したのは、
雪の斑点が窓を埋める季節で、
「そうね」
と彼女が思い出したように席を立ったのは、
23時を回った頃だった。

しばらくして、
いそいそと料理を並べ出す。

特に目立つのが特大デキャンタを満たす二杯のブルーハワイ。
泡に揺られてカラフルなゼリーは浮き沈み、
上半分銀紙がついたままのウェハースが差し込まれ、
カラービーンズで彩られ、
バニラフロートの上はとても賑やかだ。
もう溶け始めている。

フレンチソースのかかったグリンサラダには、
皿のよこを横断するような海藻の川と、
ジャーマンポテトの橋。
皿を敷き詰める小麦色の卵焼きには、
玉ねぎで作った子ウサギが跳ね回り、
中心から少し外れた場所にはバジルソースの湖。
バケットには角切りのフレンチトーストが積まれていて、
シナモンシュガーがトーストの上部を真っ白にそめていた。

「さ、どこへ行こうか?」
と、彼女。
「じゃ、とりあえずロサンゼルスで乾杯して、フランス、 スイス、ドイツと回ろうか?」
と、僕。
「賛成っ。乾杯っ!」

一つ訂正。
ブルーハワイではなく、
ブルーデビルだった。
ロサンゼルスの夜は、
思いの外、暑い。

遥か遠くから列車の音、
雪は控えめに静けさを増すので、
グラスを当てる音はなお高く響く。
旅は始まったばかりだ。

「ちなみにわたしのはロサンゼルスだけどきみのは横浜ね」

フロートは音もなく溶けて崩れて、
ウェハースは白んだ空に沈んでいった。

凛、Echo Days。 夏樹 鳥ノ枝


山河、雪崩れて。
白く乾いた故郷の路ゆく。
雨は町を流して。

お昼下がりの束の間に。
朽ちてしまった母屋の中。
ボランティアなどと参じた彼らと老人が。
ひし、抱き合う光景。
テレビのフレームは無くて。
脇目、ガードレールに引掛かる流木を数える。

自販機も券売機も100円玉を飲まずに吐き出した。
泥砂だけが溜まっている。

故郷、家路。
旅路とは長い家路。

嘘のように焼けた太陽に。
車窓から離れ往く町に零れ落つ。
その、今日の呼び水。
積もった土に浸み入って。
手を遣る胸元、ペンダントのガラスから故郷の陽が漏れる。

かくれんぼ(改) やや


いつ振り返っても、指の冷たさばかりを思い出します。
それに名前をつけるチャンスは、いくらでもあったと言うのに。

彼が何を思っているか、いつ視線を交わすかを、よく分かっている私は
それを優しく葬ることにだけ専心しました。

あの、窓際に隔離されて、ゆっくりと干からびた、サボテン。
私は正に同じ過ちを繰り返そうとしているのです。

分かり合えたはずでした、だってあまりにも似すぎていました。
支え合えなかったのです、だってあまりにも似すぎていました。

私たちは、ふたり足してもマイナスになってしまうのです。
冷たい手を重ねても、ただ凍えてしまうだけなのです。
間違っているのですから、いくら求めたって
私の孤独は雛鳥のように口を開けて鳴くだけなのです。

彼が何を発するか、次に何を思うかを分かりきった私は
それを静かに殺すことにばかり固執しました。

私たちは弱くて、何でも簡単に自分の中に連れてって、かき混ぜて
区別をなくしてしまうのです。それなのに、一言投げ合うだけで、
私たちはやっぱり分かりあってしまうのです。

薄闇は、全てを曖昧にしてしまいます。
風景だって、心だって、境があるものは何だって
このヤミの中では簡単にぼやけてしまうのです。

俯いたときに浮かび上がるのは、オレンジ色に薄暗い記憶です。
どうしても忘れられないのは、ほの暗いテーブルに向かい合った
彼、の只々白い手と、真っ赤な携帯電話と、鈍く光ったロックグラスです。

潤んだ角膜を通して、滲んだ景色と心が溶けた時間は
何度でも私を間違わせます。
この潤んだ時間は、すでに私だけのものなのは、解っています。

それでも。
あの繊細さを体現したような、透き通る肌をもつ彼を、私は、彼は




あの頃 日向 李紅


泣いて  泣いて
「行かないで」って言ったら
君は戻ってきてくれると
あの頃の私は  本気で思ってた


だけど  君は


「それは間違いだ」と
厳しいけど  どこか優しく
私に教えてくれた


「ごめんね」
あの頃よりは  少しばかり成長しス私
そして  君への謝罪の気持ち


あの時の私の涙は
君を苦しめる以外の何者でもなかった


あの時の私の言葉は
君を縛り付ける以外の何者でもなかった


時間【とき】が経った今なら
ちゃんと君と向き合える


あの時君が突き放してくれて初めて分かった
だから
「ごめんね」って言葉よりも
「ありがとう」って気持ち

教育 古月


幸い
私たち一人ぶんの空洞と
それを支える立派な外骨

喩えれば愛らしく可愛い舌の在るべきに
奥深く続く快きには臥せる
咀嚼の姿が見えていない


曖昧な自己愛の愛を隠して笑う
生まれていれば丁度娘くらいの年の頃と
這い出しては眺める女の醜い部分

腹を満たす

愚図の顔をして恥ずかしげもなく
正常な神経に立ち昇る陽炎
放射光に焼きついた天秤型の影は
鳥だ


石畳の広場を埋める雨音降りしきる午後
雲はなく空は何処までも青い

千切れて舞い上がる旗が
顔を覆う

崩壊 日向  李紅


生まれたときから
もう、何年という月日を
君と過ごしてきた
君と一緒にいることが
君が隣で笑ってくれていることが
当たり前だと思っていた、愚かな自分


そんな奴だから、いつしか
自分の心に平気で嘘付いて
本当の気持ちを誤魔化していた


馬鹿だよな
誰かに奪われて初めて
君の存在の大きさを知って
「あの時もっと素直になってれば―・・・」
なんて思いながら
どうしようもないくらい、後悔して


そうかといって
奪い返すような度胸もなくて
君がいないと成り立たない駄目な俺は
君という存在を失ったことで
少しずつ、少しずつ
でも、確実に
 

崩れてゆくんだ―・・・



夜と昼 ふるる


 夜

天球儀まわる
透明に

川底をめぐる
闘魚の輪郭

壊された客間のドア
こぼれる鍵盤

遅すぎた伝令
到達しない 手

灯台の照らす
縮れた波間

幼い寝息

雷鳴響くあたりから
いばらが群れをなして歩いてくる



 昼

さくらんぼのカクテル
階段の影

晴天を目指す
河口の嬌声

見られている
窓越しのさようなら

干してある果物
片足だけサンダル

眠る灯台は
再び夜のために

幼い笑顔

雲の波打つあたりから
ひばりだけが生還してくる

破片(僕らは搾取するバージョン) たもつ


コップを割ってしまった
深夜ひとりで
お寿司をにぎっていただけなのに
お刺身はさくのものをスーパーで買ってきた
すでに誰かが殺してくれていたので
何も殺す必要はなかった
酢飯の作り方は知らなかったけれど
インターネットで検索して作った
練りワサビは切らしてしまった
コップは割ってしまった
大きな破片は手で拾って新聞紙でくるみ
ビニール袋に入れた
細かい破片があるといけないので
その後掃除機で吸った
お刺身が手に冷たい
それにはかつて
きちんとした形と機能とがあって
海を泳ぎまわっていたにちがいなかった
そのような死体から得た栄養分で体は成り立ってるのに
いつまでたってもうまく泳ぐことも息継ぎすることもできない
にぎったお寿司を食べ始めると
指先に軽い痛みがあった
コップの破片で切ったに違いなかった
いくつかの酢飯に赤い染みがついている
そして何を弔うわけでもなく
夜明けまでひとり
お寿司を食べ続けた
 

破片(ホラー・バージョン) たもつ


コップを割ってしまった
深夜、妻と二人で
お寿司をにぎっていただけなのに
お刺身はスーパーに丁度良いのがなかったけれど
たまたま活きの良いのが手に入ったので
とても嬉しく感じられた
酢飯の作り方は妻も教えてくれないので
なんとなく考えて
炊いた白米に酢とみりんを入れて混ぜた
練りワサビは切らしてしまった
コップは割ってしまった
優しい妻は怒らなかった
大きな破片は手で拾って新聞紙でくるみ
ビニール袋に入れた
細かい破片は掃除機で吸った
お刺身は数限りなくあるので
ひたすらお寿司をにぎって並べていくと
最初にできたものは既に端のほうで
腐り始めている
お刺身にはかつて生きていたもの特有の生温さがあり
手でにぎっているはずなのに
手をにぎられている気がしてくる
夜明け近くになってようやくすべての作業を終え
妻に食べよう、と声をかけるけれど
どこからも返事がないのでひとりで食べる
腐臭が口いっぱいに広がる
口に異物が入っている気がして引っぱりだすと
夏まで伸ばすの、と言っていた
妻の髪だった


向日葵 水瀬史樹


雪原に埋もれまいと
背伸びを繰り返し
太陽に顔を背け星を捜している向日葵です
何度も花を拓こうとしながらも
雪の重みに挫けていく蕾です
笑い方を忘れて白くなったはなびらです
橙を黄色を見つける度にうなだれて
おじぎ草に寄り掛かる
そんな花を
覚えていて下さい
晩夏の夜の26時に
チカりと流れる六等星があります
見つけて下さい
捜してください
雪原へ飛び込む前に
「はなよひらけ」と三回願って欲しいのです
いいえ
忘れて下さい
どうか
忘れて下さい
もう見つかりはしないのです
いくら捜してもあの星は生まれないのです
忘れて下さい
なにもない
忘れて下さい
みえはしない
忘れて下さい
これはゆめのはなし
忘れて下さい
だから
忘れて下さい
僕も捜しません
もう捜しません
花は咲いたら散るのです
流れた光は雪になるのです
だから忘れて下さい
もう忘れて下さい
忘れて
それでも
忘れてもらえないのなら
雪の夜には思い出して下さい
掌に乗せても溶けない雪がありましたら
それは向日葵の蕾です
左側の
胸ポケットの中で溶かしてあげてください
太陽からあなたのうなじへ
逃げるように潜り込む雪がありましたら
それは向日葵のはなびらです
前髪に
差し込んであげてください
あなたが覚えてくれるなら
僕も忘れません
日差しの強さほど
葉を色濃くしていくと誓います


夏を迎える ことこ


言葉

目配せする紫陽花たちはにぎやか/に笑みをこらえる。もうすぐ先生がやって来る。廊下をひた走る。期待。新学期はとうに古びて奇妙な連帯感が地中に根を伸ばす。もうすぐ黒板消しが落下する。中間テストを目の前にして、すまし顔を装う。

回析

あくびをかみ殺す、あいまに秒針を進めたい。必然的に酸素が足りない。こんなに狭い水槽では、水草に足が絡まるのだ。前線を押し上げるためにいっせいに背伸び。あるいは、肩車をするくらいの思い切りのよさで良い。起立/礼/着席後は秒殺で飛び出せ。

合唱

うす暗い渡り廊下で響かせる。ママレードを薄くスライスする練習を繰り返す。すとすととまな板に包丁があたる。リズミカル。さわやかな果汁があふれる。ひまわりの笑い声。日焼けした肩。上を向いた水道の蛇口から、飛び散る水飛沫がまぶしい。

水面 ノいキ





仄く眠りにつく 夕焼け色の
火照った身を浴槽に佇ませて
不意に 母上の泪に濡れた瞳を
湯船へ堕とせば

とぷん、
揺らめく 模造の海原

懐かしの父上の背中は、遠く
鼓動に滲む 左胸の旋律

天空の彩が遙かに看得る
眼下で波紋に舞う 鮮やか過ぎる、深海は
父母との境界線を曖昧に

ぽぉん
此方を手招いた


嗚呼
母上の、緩やかな 呼び声がする

嗚呼
父上の、穏やかな 呼び声がする


耳朶を爪先で撫ぜる、地平線の音色
其方には まだ、生けぬ

虚ろに模られた 太陽が微笑もうとも
嘆きながら、尚 宵月と在る日の輪と共に
傷んだ指先を絡ませて
跡無い浜へと 歩を進ませよう


揺れる水面に翳した、掌の 彼方
柔肌から零れ落つる 天空の泪を
指先で掬い撫ぜれば

星灯りの子守唄 幼き刻の旋律に
境界線は微笑んだ

私は 此方で往き
逝くだろう

嗚呼
父母が、微笑む
藍玉の海原の慈しみで
私を 柔く、抱いて




.

かくれんぼ やや


いつ振り返っても、指の冷たさばかりを思い出します。
それに名前をつけるチャンスは、いくらでもあったと言うのに。

窓際に置いてけぼりにされて、毎日見守られながら
いつしか干からびてしまったサボテンに、それはとてもよく似ていました。

彼が何を思っているか、いつ視線を交わすかを、よく分かっている私は
それを優しく葬ることにだけ集中することにしました。

いつだって浮かび上がるのは常に薄暗い記憶です。

忘れられないのは、ほの暗いテーブルに向かい合った
彼、の白い手と携帯電話とロックグラスです。

分かり合えたはずでした、だってあまりにも似すぎていました。
支え合えなかったのです、だってあまりにも似すぎていました。

彼が何を発するか、次に何を思うかを分かりきった私は
それを静かに殺すことにばかり固執しました。

私たちは、ふたり足してもマイナスになってしまうのです。
冷たい手を重ねても、ただ凍えてしまうだけなのです。
間違っているのですから、いくら求めたって、
私の孤独は雛鳥のように口を開けて鳴くだけなのです。

私たちは弱くて、何でも簡単に自分の中に連れてってかき混ぜて
区別をなくしてしまうのです。それなのに、一言投げ合うだけで、
私たちはやっぱり分かりあってしまうのです。

薄闇は、全てを曖昧にしてしまいます。
風景だって、心だって、境があるものは何だって
薄明かりの中では簡単にぼやけてしまうのです。

潤んだ角膜を通して、滲んだ景色と心が溶けた時間は
何度でも、私を、彼を、間違わせます。

繊細さを体現したような、透き通る肌をもつ彼を、それでも、私は、彼は、

存在 日向 李紅


君が
私の心の中の一番大きな存在であるように


私も
君の心の中の一番大きな存在でありたい


そう願うのは・・・


いけないことですか??


(輪郭) ことこ


(輪郭)

こんこんと湧き上がる花の火の
みみへ伝わる振動が
つれてゆく
うまれたての湖の静寂

くちびるの隙間から
こぼれてゆく言の葉が
切りとるいっしゅんは
つめたい石に閉じ込めて

ねむたいの、ねむりたいの
子守唄をきかせて


(波紋)

レモン色の舌でわらう
月がまるい
まるすぎて
かぶりついた子どもの歯型が
なみうって残ります


(薄氷)

規則ただしい音程で
進んでゆく
ティンパニの夜明け

欠けることで保つ
シンメトリーの朝顔

アスファルトだけが
なんどでも緩んで
蒸発する
白昼を迎える

破片 たもつ


 
 
コップを割ってしまった
深夜ひとりで
お寿司をにぎっていただけなのに
お刺身はさくのものをスーパーで買ってきた
赤くて二割引できれいだった
酢飯は作り方がよくわからないので
知人に電話で聞いた
知らない、と言われた
何故知らないのかは教えてくれなかった
なんとなく考えて
炊いた白米に酢とみりんを入れて混ぜた
練りワサビは切らしてしまった
コップは割ってしまった
大きな破片は手で拾って新聞紙でくるみ
ビニール袋に入れた
お寿司を握っていただけなのに
細かい破片は掃除機で吸った
床の隅にナスが一本転がっていたので
ついでに冷蔵庫にしまった
昨日もそこにあった気がする
お刺身が手に冷たい
もしかしたらかつては
本当に生きていたのかもしれない
にぎったお寿司は二十貫に少し足りなかった
二十歳のころは
お寿司なんて握ったことはなかったのに
コップはいくつか割ったにちがいなかった
そしてゆっくりと口の中で壊すように
夜明けまで
お寿司を食べ続けた
  
 
 

自癖 まりっこ


先生の言った言葉が離れないので
私は笛の通り 匍匐前進を続けます
多分未だ梅雨は明けてないと
塞ぎ込んでしまった穴に
降り注いでいる恋水

最近流行の酸性雨が草木と一緒に
私の事を溶かしてくれそうな気がして
水溜りに映る姿を何度も確認しています
本当は眼なんて持っていないけど

飲み込み損ねたものを無理矢理に押し込んで
いつだって従っている
あまりにもそれらの浮き沈みが激しいので
困っています 私
ドアノブに縄を繋ぎ止めて
生きた心地を捨てて
進みます 私、

匍匐前進で

嘘 美沙


私は弱い人間だ

自分の感情を表に出せない

いつも
偽りの自分をつくっている・・・

嘘で固められた私の人生

そんなことがあっていいのだろうか。

本当の自分をさらけだせ
それで嫌われたっていいんだ

だってそれが本当の自分なんだから
自分は
そこまでの人間だったということだから


人は弱い

嘘をつかないと生きていけない

そんな人間だから
誰かと共に生きていくんだ

お人形 日向 李紅


貴方が笑顔だと  私も嬉しくなる


だけど・・・笑えないのは何故?


貴方が泣いてると  私も悲しくなる


だけど・・・涙が出ないのは何故?


あぁ・・・そっか・・・。


私がお人形だからなのね


四六時中ずっと  ホコリのかぶった棚の上


貴方に振られることなく  


もう  何年も前から同じ場所に


笑いもず  泣きもせず  


ただ  無表情に座っている


いつか・・・また


貴方のその温かい手に振られる日を夢見て・・・




仲間 美沙


どんなにお金を出しても

どんなに卑怯な手を使っても

けして手に入ることのない仲間たち

共に涙を流し

共に笑顔をこぼした仲間たち

そんなかけがいのない仲間たちと過ごしたからこそ

今の私がいるんだ


それって、すごいことなんじゃないのかな

それって、すばらしいことなんじゃないのかな

告白 日向 李紅


君と俺はただのクラスメイト


特別仲が良いワケじゃない


話した回数なんて数えるくらい


もしかしたら君は  俺の下の名前さえ覚えてくれていないかもしれない


だからきっと  告白なんかしても


断られるに決まってる


君は俺のことなんて何とも思ってない


ダメだって分かってるのに


心の奥底では  もしかしたら・・・?って


ほんの少し  期待してる自分がいるんだ


静動音を呈して ナツキ


静動音を呈してゆらゆらするそれは
頭から数多生い出して
這い出して
ヤドリギの様に貴方の頭から
水を吸って 油を吸って
床の隅に何本も
風呂場に何本も
痩せぎす鼠の死骸の尾が
ぐったりとくねやかなどす黒い様に
あそこでも、ここでも、
てらてらと蟻の群がる蠕動をして
薄皮で包んだ白い白い頭のその一面
喰い尽している

―――髪。

スコール やや


風の強い日だった
乾いた砂混じりの風がざらざら吹いてる
カーテンがバサバサと悶える夕暮れ
とさっと夢から落とされる

冷たく黙り込んだ壁に
CDの歌声は無機質に響き
部屋がオレンジに染まっていく
喧騒は少しずつ遠ざかり
私は君の声だけを聞きたがる

私には捧げる言葉がない
ぽつり、ポツリ考える

君のためになる言葉なんてない
ふわふわ と降っては
すとすと と積る雪
みたいな事が言いたいけど
いつだってそれは
ボタボタ と落ちる雨
に似ている
君はいつだって雨の日に頭痛を抱えてる

汗ばんだ首を拭って
真夏の太陽のように気ままに
アチコチを照らしてしまえればいいと思った
それほど強い光があれば
君の闇だって更に色濃くできる

原色が足りない
ガラス越しの色しか知らない
白も黒も混じってただのグレイになってる
血は何度流しても淡い朱色で
言葉もいつだって何かにつけて包まれている

私には掲げる言葉がない
ぼとり、ボトリ零す

君のためにある言葉だけがここにはある
ひゅんひゅん と飛んでは
しとしと と君を濡らす

私は君に傘をあげよう

狂愛 日向 李紅


これ以上君といたら


俺はいつかきっと  君を愛しすぎて


独占欲だけが強くなって


自分だけのものにしたいという気持ちから


この手で君を殺めてしまうかもしれない


だから  そうなる前に  


君のその手で


僕の冷たく凍った心を優しく包んでくれたその手で


俺の全てを終わらせて下さい


初めて誰かに壊されてもいいと思ったんだ


だから・・・どうか・・・


君の事だけを愛しているままの俺で  


終わらせて下さい


愛しい君の手で最後の時を迎えれるなら


もう  何も思い残すことはありません


お願いだから・・・終わらせて・・・


「ありがとう」 日向 李紅


「恋」を知らなかったあの頃の俺に


人を愛すことの本当の意味を知らなかった俺に


この胸の嬉しさや温かさや


時に辛さや苦しさを教えてくれ


そして  真っすぐに俺を愛してくれた君


(君に出逢ったこと・・・後悔してないよ?)


(最後に一言・・・「ありがとう」のコトバを伝えたい)


君と俺の涙の理由 日向 李紅


泣くなよ


俺がずっと傍にいてやるから・・・


なんて言っても  どうせお前はアイツのコトを思って


バカみたいに涙流すんだろ?


それで  俺もそんなお前を見て


バカみたいに涙流すんだ・・・

首都 たもつ




忘れ物のような話をしました
ただ長いだけのベンチがあり
終わりの無い話を続けました
読みかけの本が無造作にふせられ
背表紙は少し傷みかけていました
マリエはすぐに人を殺そうとする
けれどマリエはもういないので
誰も殺されることなく
話だけが続きました
話の途中何度かの言い間違いがあり
そのいくつかは訂正され
残りはそのままでした
心臓に一番近い駅を知っている
マリエは言いました
小さな駅なの
小さな駅前に
古い本屋さんと中華料理屋さんがあるの
そこに心臓があるの
マリエは浴衣が良く似合い
嘘をつきませんでした
これから見に行こうか、とマリエは言いましたが
マリエはもういないので
これから、も
見に行こうか、もありませんでした
マリエと最後に見たのは
公営住宅の三階か四階の
狭いベランダに干されたシーツでした
もしかしたらただの白くて大きな布、
というだけだったのかもしれませんが
二人ともシーツ、と思って
シーツ、と言いました
首都が終わりをむかえるころ
ベンチに木漏れ日が落ちて
模様のように綺麗でした
そしてそのころになると
どこまでも話だけが続いて
すでにわたしの姿も見あたりませんでした
 
 
 

脈 古月


雨の中で開かない傘の重さを
忘れられず捨てられもせず

晴れの日には大きく腕を振って
あてもなく足を伸ばしたい

線路の向こう側は幹で
こちら側は根だと教わる
街路はひと続きのようでも途切れていて
わたし達の暮らしはいつまでたっても
なかったことにされつづける



呼称の指し示す範囲の
厳密な線引きに固執する
規則性と特質の
極めて言語的な流線

しあわせ、
と口に出して言う
たったそれだけのこと



目を覚ませば曖昧な日々でも
うっかり足を戻し忘れないように

振り返れば朝の白々しい光の飛沫が
昨日の道を消しているから
もう少しだけ知らぬふりをして
歩いていける

そんな気がする